2025年11月11日(米国時間)に.NET 10、(そしてVisual Studio 2026)が正式リリースされました。
今回は、.NETプラットフォームの次期メジャーバージョンである.NET 10について、その全体像と注目機能を紹介します。
以下の方に役立つ内容となっています。
- .NETの最新情報に興味がある方、特にC#開発をしている
- .NET 10の特長をざっくり押えておきたい
- Microsoftの最新の.NET戦略について知りたい
.NET 10はLTS(Long-Term Support)リリースで、3年間のサポートが受けられる重要なバージョンです。一緒に詳しく見ていきましょう!
動画も作成しています。
.NET 10とは?
.NET 10は、2025年11月11日にリリースされたLTS(Long-Term Support)版です。LTSリリースは以下のような版となります。
- 3年間のサポート(.NET 10は2028年11月10日まで)
- 本番環境での利用に推奨される安定版
- 企業での採用に適したバージョン
.NET 10のSDK、Runtimeはこちらでダウンロードできます。また、最新版Visual Studio 2026でも.NET 10を選択できるようになっています。

.NET 10の最新機能に関する情報を得るには、以下のリソースを活用してください。
- Microsoftの「Announcing .NET 10」
- .NET Conf 2025の主要新機能に関する講演動画
①でざっくり全体の概要がわかります。興味のある内容について②で講演を聞いてみるとよいかと思います。デモもありますし、YouTubeで自動翻訳の日本語字幕も表示できます。
かなりのボリュームがあるので、①で雰囲気をみて自分の興味がある領域について②などで詳細を確認してみるのがよいでしょう。
.NET 10の全体像
.NET 10 は、 「AI・クラウド時代にC# だけで、エンタープライズシステムを全部作れる未来」 に向けて、以下の(1)~(7)のような主要ピースが進化した版といえます。
- (1)言語(C#14、F#10)
プログラミング言語本体。 - (2)構成・運用(Aspire 13)
マイクロサービス構成・接続・監視を統一する「アプリのまとめ役」。 - (3)Web アプリ(ASP.NET Core Blazor)
Webアプリを作成できるフレームワーク(サーバ/クライアント両対応)。 - (4)デスクトップ/モバイルアプリ(.NET MAUI)
Windows / macOS / iOS / Android のネイティブ UI を C#で作るクロスプラットフォームUIフレームワーク。 - (5)データアクセス(Entity Framework Core)
C#コード・LINQでDBを扱えるORM。 - (6)AI機能(Microsoft Agent Framework、Microsoft.Extensions.AI)
AIワークフロー開発、複数の AI モデルを共通APIで扱える統合レイヤー。 - (7)開発環境(Visual Studio 2026)
統合開発環境。GitHub Copilotとの深い統合により、AI支援開発が標準化。
これによって、「サービスごとに言語がバラバラ」という状況を減らし、開発チームが同じ知識でシステム全体を理解しやすくなる、という大きなメリットが生まれます。
以下は新機能の全体像です。(「Announcing .NET 10」からの抜粋です。詳細は元の記事を参考にしてください)
これらすべてを理解する必要はありません。
「こんなキーワードがあるんだな」という雰囲気をつかんでもらい、 興味のある部分だけ後ほど詳しく見ていく、という使い方がおすすめです。

ここまでは.NET 10 の“全体の地図”を確認しました。次にそれぞれの領域で、注目すべきトピックを順に紹介します。
注目トピック紹介
(1)言語:C#14新機能
C# 14は「より簡潔で表現豊かに」なりました。
1例として、fieldキーワードによるバッキングフィールド記述の簡略化をみてみましょう。C# 13以前は以下のように記述していたものを、
private string _name;
public string Name
{
get => _name;
set => _name = value.Trim();
}C#14ではfieldキーワードを使って以下のように記述できます。
public string Name
{
get => field;
set => field = value.Trim();
}バッキングフィールドを宣言しなくていいんだね!コードがスッキリする!
そうですね。fieldキーワードは、コンパイラが生成したバッキングフィールドに直接アクセスできる機能です。
C# 14の新機能をみると、fieldキーワードのように「痒いところに猛烈に手が届くアップデートの集合体」という印象ですね。
このような丁寧な積み重ねで進化していくのが、C# という言語の強さといえるでしょう。
(2)構成・運用:Aspire 13
Aspireは、2023年末に.NET8のリリースにあわせてプレビュー版がリリースされた新技術ですが、AI・クラウド時代のC#フルスタック開発における中核といえるものです。
Aspire は、アプリに必要な「API・DB・フロントエンド」などの部品と、それらの“つながり(配線)”を C# だけでまとめて書ける仕組みです。以下はコード例です。
var builder = DistributedApplication.CreateBuilder(args);
// API サービスを登録(ヘルスチェック付き)
var apiService = builder.AddProject<Projects.AspireApp1_ApiService>("apiservice")
.WithHttpHealthCheck("/health");
// Web フロントを登録(外部公開・ヘルスチェック)
// API を利用することを宣言(接続を自動配線)
// API 起動を待つ
builder.AddProject<Projects.AspireApp1_Web>("webfrontend")
.WithExternalHttpEndpoints()
.WithHttpHealthCheck("/health")
.WithReference(apiService)
.WaitFor(apiService);
// まとめて実行
builder.Build().Run();Docker や Docker Compose みたいな構成定義を、全部C#コードで管理できるイメージです。C#コードなので型安全性・自動補完・デバッガなどの恩恵が受けられます。
さらに ローカル実行もワンクリックで動き、Azure へデプロイすると必要なリソース(Container Appsや SQL Database等)を自動で構築してくれるのが特徴です。
C#・Azureを中心としたシステム開発では、すごく便利そうだね!
マイクロサービスだけでなく、API+DB+フロントのようなシンプル構成でも、配線管理やデプロイが一気に楽になるため十分メリットがあります。
Aspire 13ではAI 連携・自動化・マルチ言語対応も進み、「複雑なAI・クラウドアプリを簡単に扱える」方向に大きく前進しています。
Aspire 13はかなり若い技術ですが、AI・クラウド時代のC#フルスタック開発における基盤であり、将来有望です。
まずは「Aspire スターター アプリ」のプロジェクトひな型を動かしてみて、雰囲気を掴んでおくだけでも有益だと思います。
(3)Webアプリ:ASP.NET Core / Blazor
.NET 10のASP.NET Core / Blazorは、「Webアプリ開発の面倒なところを、どんどん自動化・簡単化していく」方向性が見えるアップデートです。2点ピックアップします。
1. パスキー(WebAuthn)対応
ASP.NET Core Identityがパスキー認証に正式対応しました。パスキーは、パスワード不要で生体認証や端末認証を使った安全なログイン方法です(WebAuthn/FIDO2標準)。
Blazor Web Appのプロジェクトテンプレートには、パスキーの管理とログイン機能が標準で組み込まれています。

最新の認証方法がテンプレートに組み込まれていて、すぐに使えるのはうれしいね!
2. Blazorのコンポーネント状態永続化の改善
以下のように、[PersistentState]属性をつけることで、プリレンダリング時の状態をインタラクティブレンダリング(例:Interactive Server)へ引き継げるようになりました。
(以下は、「.NET 10 の ASP.NET Core の新機能」のコードを引用したものです)
@page "/movies"
@inject IMovieService MovieService
@if (MoviesList == null)
{
<p><em>Loading...</em></p>
}
else
{
<QuickGrid Items="MoviesList.AsQueryable()">
...
</QuickGrid>
}
@code {
[PersistentState]
public List<Movie>? MoviesList { get; set; }
protected override async Task OnInitializedAsync()
{
MoviesList ??= await MovieService.GetMoviesAsync();
}
}こうすることで、MovieService.GetMoviesAsync()による読み込み処理は一度で済むのですね。
[PersistentState]を使わないでも書けるのですが、コード量が増えて煩雑だったのです。
他にも、サーバへの接続が長時間失われた場合にもユーザセッション (回線) 状態を保持できるようになるなど、「状態管理」に関する利便性が向上しています。
「セキュリティ強化」と「UX改善」などを少ないコードで実現できています。
Blazorサーバモードについては、「サーバ・クライアントコードを一元的に記述」可能な特殊アーキテクチャに起因する技術課題の解消も進めていますね。
(4)デスクトップ・モバイルアプリ:MAUI
MAUIでは、プラットフォーム対応の最新化・XAML改善・Aspire統合など様々な機能追加が行われています。
例えば、XAMLでは以下のようにxmlnsグローバル名前空間(GlobalXmlns.csに定義)を使用することで、XAMLで毎回長大な名前空間インポートを書かなくて済むようになりました。
Before (.NET9以前)
<ContentPage xmlns="http://schemas.microsoft.com/dotnet/2021/maui"
xmlns:x="http://schemas.microsoft.com/winfx/2009/xaml"
xmlns:models="clr-namespace:MyApp.Models"
xmlns:controls="clr-namespace:MyApp.Controls"
x:Class="MyApp.MainPage">
<controls:TagView x:DataType="models:Tag" />
</ContentPage>After (.NET10)
<ContentPage x:Class="MyApp.MainPage">
<TagView x:DataType="Tag" />
</ContentPage>Blazorの「_Imports.razor」みたいな感じだね!
そうですね。これもC#の「痒いところに手が届く改良」の一例ですね。
.NET MAUIはクロスプラットフォーム開発のUIフレームワークとして着実に進化している。
.NET MAUI に「.NET Aspire 統合」が入り、MAUI アプリも Aspire アプリ群の正式メンバとなり、Aspireを基盤とした統合も進んでいるようです。
(5)データアクセス:Entity Framework Core 10
Entity Framework Core 10(EF Core 10)は、「AI時代のデータアクセス」に対応した重要なアップデートです。特に注目すべきは、ベクトル検索機能の正式サポートです。
EF Core 10では、SQL Server 2025とAzure SQL Databaseの新しいvectorデータ型とVECTOR_DISTANCE()関数を完全サポートしています。
これにより、RAG(Retrieval-Augmented Generation)や意味検索などのAIワークフローを、使い慣れたLINQクエリで記述可能です。使い方は以下のようなイメージです。
//データ定義 (DBテーブルに対応)
public class FaqEntry
{
public string Question { get; set; }
public string Answer { get; set; }
// RAG で検索するための埋め込み
[Column(TypeName = "vector(1536)")]
public SqlVector<float> Embedding { get; set; }
}
...
// ユーザーの質問を埋め込みベクトル化
var sqlVector = new SqlVector<float>(
await embeddingGenerator.GenerateVectorAsync("ユーザーからの質問テキスト")
);
// FAQ エントリの中から、類似度トップ3を検索(RAG の検索部分)
var topSimilarFaqs = await context.FaqEntries
.OrderBy(f => EF.Functions.VectorDistance("cosine", f.Embedding, sqlVector))
.Take(3)
.ToListAsync();このように、ベクトルの距離に基づく検索を、LINQを使って自然に記述できます。
従来のデータベース検索は「完全一致」や「部分一致」でしたが、EF Core 10では「意味が似ているデータ」を探すベクトル検索が可能になりました。
これにより、RAG(検索拡張生成)のような最新のAI技術を、使い慣れたLINQクエリで自然に実装できます。
(6)AI機能:Microsoft Agent Framework(MAF)
Microsoft Agent Framework(MAF)は、AIを使ったアプリケーションを「自動で考えて動く仕組み」に近づけるための新しいフレームワークです。
たとえば、
- AI が手順を判断してタスクを進める
- 複数の AI が役割分担して会話しながら問題を解決する
…といった高度な動きも、MAFを使うと C#/.NET の世界で自然に書けるようになります。
これまで似た思想のツールとして Semantic Kernel(SK) や AutoGen がありましたが、MAFはそれらを統合し、よりモダンで堅牢な形にまとめ直した「次世代版」です。
MAFでは下のような“AIの仕事の流れ”を、“ノード”として組み合わせるだけで作れます。
- 指示を読む
- 必要ならツールを呼び出す
- Web検索する
- 別のAIに渡す(ハンドオフ)
- 結果をまとめ直す
以下は、Writer(執筆)と Editor(推敲)という2つのAIエージェントを作り、順番に動かすワークフローを組み立て、それ全体を1つのAIとして扱えるようにする例です。
(以下は、Announcing .NET 10におけるMAFのコード例の引用です)
// Create agents with minimal code
AIAgent writer = new ChatClientAgent(
chatClient,
new ChatClientAgentOptions
{
Name = "Writer",
Instructions = "Write engaging, creative stories."
});
// Orchestrate in workflows
AIAgent editor = new ChatClientAgent(chatClient, /* ... */);
Workflow workflow = AgentWorkflowBuilder.BuildSequential(writer, editor);
AIAgent workflowAgent = await workflow.AsAgentAsync();役割分担したAIたちを “チーム” としてまとめて動かせるようにするコードを簡潔に書けるんだね!
こうした処理の流れを、コードだけでなく 視覚的なデバッグUIで確認できるため、どこで迷っているか・どのステップで失敗したかも一目で分かります。
(以下は、Announcing .NET 10におけるMAFの解説動画からの引用です)

MAFは、AIエージェントが自律的に判断・行動するワークフローを構築するための統合フレームワークです。
Python界隈のLangFlow/LangGraphに相当する.NET版と言えば分かりやすいでしょう。”堅牢に・エンタープライズ水準で”AIワークフローを構築できます。
MAF自体はまだプレビュー版であるため、今後の発展に注目ですね。
(7)開発環境(Visual Studio 2026)
4年ぶりのメジャーバージョンアップであるVisual Studio 2026の新機能については、Insider版の速報記事でもお伝えしましたので、こちらもぜひ参考にしてください。
ここで紹介しているように、AI機能(GitHub Copilot)の統合・パフォーマンスの大幅改善、UI改善などが今回の柱になっています。
.NET Conf 2025では、新たな機能紹介としてGitHub Copilotで@で呼びさせる特化型エージェントとして、これまでの@profilerに加えて、以下が紹介されています。
- @Modernize: 様々なモダナイゼーション、例えば古い.NET(レガシーコード)から最新の.NET 10への移行を行う
- @Test : プロジェクトを分析してテストプロジェクト、テストケースを作成する
(※Testはプレビュー版で、現在VS2026 Insidersでのみ使えるようです。)
これらのAIエージェントを活用し、「レガシーコード(古い.NET、テストなし)のプロジェクトを.NET 10へ移行して自動テストを作成」というユースケースのデモがありました。
記法の最新化・NuGetで最新パッケージ導入・最新メソッドへの切り替えなどの煩雑な作業を自動化してくれるわけですね。最後にテストを作成してくれるのも嬉しいですね。
レガシーなC#のプロジェクトを最新化できるんだね!すごい!
移行後のテストも支援してくれるところが嬉しいですよね。いろいろな意味で「脱レガシー」の協力な助っ人ですね。
モダナイズ、テスト、デバッグ、リファクタリングなど、様々な用途に特化したAIエージェントがGitHub Copilotで使えるようになりそうです。
さらにMCPで外部サービスとの連携部分を自前で作れば、自社用のAIエージェントをVisual Studioでそのままスムーズに使うといったことも可能になりそうです。
Visual Studio 2026公式版については、別途、紹介記事を作ろうと思っています!
まとめ
本記事では、2025年11月11日にリリースされた.NET 10の全体像と注目機能について詳しく解説しました。
.NET 10は、3年間のサポートが提供されるLTS(Long-Term Support)リリースであり、本番環境での利用に推奨される安定版として、企業での採用に適したバージョンです。
.NET 10 は、 「C# だけで、ビジネスに必要なアプリを全部作れる未来」 に向けて、以下の(1)~(7)のような主要ピースが進化した版といえます。
- (1)言語(C#14、F#10)
- (2)構成・運用(Aspire 13)
- (3)Web アプリ(ASP.NET Core Blazor)
- (4)デスクトップ/モバイルアプリ(.NET MAUI)
- (5)データアクセス(Entity Framework Core)
- (6)AI機能(Microsoft Agent Framework、Microsoft.Extensions.AI)
- (7)開発環境(Visual Studio 2026)
注目トピックとして紹介したものは、多くの機能追加・改良のうちのほんの一部です。ぜひ興味ある部分については調べて、実際に動かして試してみてください。
AI統合による開発効率化は、今後の.NET開発スタイルを大きく変えるポイントになると思いますので、GitHub Copilotについてもぜひ試してみてください。
引き続き、C#/.NETを活用した効率的な開発について学んでいきましょう!




