2025年11月18日~21日(米国時間)に、サンフランシスコでMicrosoft Ignite 2025が開催されました。
今回は、Microsoftの年間最大級のテクノロジーカンファレンスであるIgnite 2025についてその全体像と、C#/.NETエンジニアが押さえておきたい注目トピックを紹介します。
以下の方に役立つ内容となっています。
- Ignite 2025の膨大な情報から、自分に関係ありそうな内容を効率よくキャッチアップしたい
- AI・エージェント時代のMicrosoftの戦略を理解したい
- C#/.NET開発をしており、Microsoftの最新動向を知りたい
Ignite 2025では多くの重要な発表がありました。全体像を掴んで、興味のある部分を深掘りしていきましょう!
先日(2025年11月11日)には.NET 10、(そしてVisual Studio 2026)が正式リリースされ、大きな発表・リリースが続きますね。
.NET10・Visual Studio 2026の最新動向については、以下もぜひ参考にしてください。
Ignite 2025 とは?
概要
Microsoft Ignite 2025は、2025年11月18日~21日にサンフランシスコで開催された、Microsoftの年間最大級のテクノロジーカンファレンスです。
現地参加者は2万人以上オンライン登録者は 20万人を超え、世界中の開発者・企業・パートナーが参加し、400以上のセッション、デモ等が行われる大規模イベントとなりました。
今回のIgniteの中心テーマ・Microsoftの目指す世界は以下のようにまとめられます。
AIがどこにでも存在し、文脈と業務データを理解したうえで、人とチームの能力を拡張する
基調講演(KeyNote)では、これらを「ユビキタスイノベーション」、AIを日常的な業務の中心においてビジネス推進する会社を「フロンティア企業」と呼んでいます。
このようなコンセプトのもと、講演の内容としては、以下のような領域において様々なサービス・ツール等の発表が行われました。
- クラウドインフラ(Azure等)
- データ基盤(Fabric/SQL/Cosmos DB等)
- AIプラットフォーム(CopilotやAzure OpenAI、Work IQ等)
- 開発者向けツール(.NET/Visual Studio/GitHub等)
- ビジネスアプリケーション(Power Platform等)
- セキュリティ/運用管理
Ignite 2025情報のキャッチアップ方法
Ignite 2025では70以上の主要発表があり、すべてを追うのは大変です。効率よく情報をキャッチアップする方法を紹介します。以下の3つがポイントです。
- (1)Microsoftの全体戦略、全体像は基調講演
- (2)公式Book of Newsで詳細をチェック
- (3)理解の補助のためAIサービス(NotebookLMなど)も活用
(1)Microsoftの全体戦略、全体像は基調講演
基調講演を見ると、Microsoftの戦略と全体像を効率よく理解できます。
今回の基調講演は、Judson Althoff氏(Microsoft コマーシャルビジネス CEO)が登壇し、約2時間30分にわたって行われました。
デモも豊富で、実際の製品がどのような場面でどう動くかをビジュアルで確認できます。YouTubeの自動翻訳機能を使えば、日本語字幕でも視聴可能です。
これだけでも2時間半あるんだ…!
この記事で、基調講演のまとめをしているので、まずはそれを見てもらえればと思います。
(2)公式Book of Newsで詳細をチェック
Microsoftは毎回のIgniteで「Book of News」という、すべての発表をまとめた公式ドキュメントを公開しています。
各発表に関連するセッション動画へのリンクなどがあるため、興味があるものについては詳細をすぐに確認できます。
全部読む必要はありませんが、目次を眺めて気になるキーワードをピックアップするだけでも有益かと思います。
(3)理解の補助のためAIサービス(NotebookLMなど)も活用
記事や動画について、概念などわかりにくい点はAIサービスを活用して理解を深めるのもおすすめです。
例えば、GoogleのNotebookLMを使うとYouTubeの動画を登録して、マインドマップを作成したり、質問したりとったことが可能です。
以下はNoteBookLMで基調講演の動画をマインドマップにしている様子です。これで、講演の全体構造や主要キーワードをざっくり把握できます。

NotebookLMで先に構造やキーワードを先に掴み、そのあとに動画で詳細をみる、といった方法も有効かと思います。
それでは、次に基調講演の内容についてみてみましょう!
基調講演の全体像をざっくり
全体像
基調講演におけるテーマの全体像をざっくりと図にしたものは以下になります。
(注:この図は膨大なIgnite発表内容の全体像を掴むための概念図です。技術的な詳細や正確な実装は、公式のBook of NewsやMicrosoftドキュメントを参照してください。)

まず、Microsoft 365(M365)環境の従来使っているサービス(Office、Teams、Power Platformなど)はそのまま利用できます。
これらの既存サービス上でAI機能が進化していくので、ユーザは慣れ親しんだツールを使いながら、より賢いAIの恩恵を受けられるようになります。
それでは、今回の発表で重要なポイントとなる以下の構成要素について順番にみていきましょう。
- WorkIQ・FabricIQ・Foundry IQ
- Microsoft Foundry
- Agent 365
WorkIQ・FabricIQ・Foundry IQとは?
より賢いAIを実現する仕組みとして、「IQ」と名付けられた3つのインテリジェンスレイヤーが発表されました。
- Work IQ: 仕事の文脈を蓄積・活用
- Fabric IQ: 業務データの理解・意味情報抽出
- Foundry IQ: 推論統合/AIエージェントの司令塔
①Work IQ:仕事の文脈を蓄積・活用
M365 CopilotやAIエージェントがユーザ(M365利用者)の「仕事の文脈・好み」などを理解できるようにするレイヤーです。以下の3つ要素から成ります。
- データ: メール、ファイル、会議、チャットなど、利用者の仕事に関する知識
- メモリー: 利用者の好み、習慣、ワークフロー、実際の仕事上の関係性
- 推論: データとメモリーを組み合わせて、有益な繋がりを見つけ、洞察を得て、次の最適なアクションを予測
Work IQはWord、Outlook、Teamsなどの日常的に使用するアプリに組み込まれており、Copilotが常に学習し続け、よりパーソナライズされた体験を提供します
イメージとしては、ChatGPTやClaudeにも搭載されているメモリ機能が近いですね。
②Fabric IQ:業務データの理解・意味情報抽出
Fabric IQは、会社にあるバラバラなデータを「ビジネスの意味」でつなぐ仕組みです。
売上データ、顧客データ、時系列ログ、位置情報など、種類も保存場所も異なるデータをまとめて、「何を表しているか」という意味づけを行います。
例えば、単なる 顧客テーブル や 注文テーブル ではなく「離脱しそうな顧客一覧」 や 「来月の売上予測」 といった、ビジネスそのものを表す単位で整理されます。
その結果、人もAIもデータの場所や形式を意識せず、「知りたいこと」ベースでリアルタイムに状況を理解できる ようになります。
例:「来月の売上予測を教えて」「離脱リスクの高い顧客の特徴は?」
→ AIが Fabric から意味づけされたデータを自動で集めて答えられる
AIが、セマンティックモデルに基づき、Fabricにある様々なデータから必要なデータを賢く取得可能になるという感じですね。
セマンティックモデルは人が作成することが前提のようですが、PowerBIの既存資産をベースにして作ることも可能とのことです。
③Foundry IQ:推論統合/AIエージェントの司令塔
Foundry IQは、社内外のあらゆる情報源を統合してAIエージェントに「必要な知識」を提供する統合レイヤーです。
Microsoft 365(Work IQ)、Fabric IQ、カスタムアプリケーション、Webなど、複数のデータソースにわたってAIエージェントに情報の根拠を提供します。
Foundry IQは単に情報を検索するだけでなく、計画を立て、推論し、複数のデータソースを横断して反復処理を行います。
これにより、AIエージェントはより深く理解し、より適切に応答できるようになります。
Foundry IQはAIの司令塔的な位置づけなんだね!
これは従来のRAG(Retrieval-Augmented Generation)を超えた「コンテキストエンジニアリング」のアプローチと言えます。
これにより、プロンプト調整やデータ整理の手間なく、AIが自律的に必要な知識を組み合わせて応答できるようになります。
Microsoft Foundryとは?
Microsoft Foundry (旧Azure AI Foundry)は、企業内で生成AI(LLM)や「AIエージェント」を安全に作成・統合・運用するための基盤 です。
Azureで確認すると、Azure AI FoundryがMicrosoft Foundryへ変わっていることがわかりますね。

また、MicrosoftとAnthropicの提携によって、LLMとして「Claude」を選択可能になっています。
サードパーティ含め、すべてのAIエージェントはMicrosoft Foundryで一元管理するようです。
また、基調講演でも、Anthropicとの連携は大きなニュースとして紹介されていました。CopilotでもClaudeが使えるようになるのは嬉しいですね。
Foundry IQがAIエージェントの「頭脳(推論・計画・統合)」だとすれば、Microsoft Foundryは「身体(運用・セキュリティ・スケール・デプロイ)」にあたると言えます。
Work IQ と Fabric IQ が整えた“知識と文脈”を、実際のビジネス現場でAIエージェントとして動かすための実行・運用基盤が Microsoft Foundryというわけですね。
そして 次に説明するAgent 365 が管理とガバナンスを担当することで、企業として安心してAIエージェント活用を進められるエコシステムが完成します。
Agent 365とは?
Agent 365は、ユーザを管理するのと同じインフラストラクチャをエージェントにまで拡張し、組織がAIエージェント管理できるようにします。
以下のように、どれだけのエージェントが動いているかといった情報をリアルタイムに把握できます。(以下は基調講演動画からの抜粋です)

基調講演のデモでは、怪しい動きをしているAIエージェントに対してセキュリティアラームが表示され、それを調査する…といったユースケースも示されていました。
皆がAIエージェントを好き勝手に作って動かしていたら、セキュリティ的に問題があるから、しっかり管理できる仕組みも提供されるってことだね!
次にこの世界観において、ビジネスで具体的にどのようなユースケースがあるのかをみていきましょう。
Copilotによる支援のユースケース
基調講演では、あらゆるユースケースでCopilotが仕事を支援してくれるというデモが多く行われました。以下にいくつかピックアップします。
医療機関における活用
医療機関で、医者と患者の会話音声からAIがサマリを作成し、さらに患者が行うべきタスクを整理したり、その進捗を管理したりというユースケースがありました。
(以下は基調講演動画からの抜粋)

医者は本質的な業務に集中し、事務的な部分は(様々なコンテキストを把握した)AIがサポートしてくれるわけですね。
店舗でシフト表調整アプリ作成
市民開発者が、以下のような「シフト表調整アプリ」を、M365 CopilotのAppBuilderで作るというユースケースです。(以下は基調講演動画からの抜粋)

AppBuilderは、自然言語による指示で、AIがSharePointリストベースのアプリを構築してくれます。
デモでは、さらにこの発展としてPower PlatformのCopilot Studioで「病欠があったときのシフト調整エージェント」を作る例も示されていました。
M365、Power Platformと幅広い層の市民開発者が、AIの力で自分たちのアプリ・エージェントを作れるんだね!
デモではさらに、基盤システムについて開発者がAgent HQへタスク依頼をして修正させたり、テストを追加したりとしていました。
(Agent HQは、GitHub上で複数のAIエージェントをワークフローの中で簡単にまとめて使える統合プラットフォームです。)
まさに、以下の図(基調講演動画より抜粋)のようにM365のユーザ・市民開発者・通常の開発者とビジネスに関わる人たちすべてが、AIの恩恵を受けるというわけですね。

C#/.NETエンジニアの注目トピック
Ignite 2025で発表された内容の中から、C#/.NETエンジニアが押さえておきたい3つの重要トピックを紹介します。
- SQL Server 2025 が正式リリース
- Managed Instance on Azure App Service
- Microsoft Foundry
SQL Server 2025 が正式リリース
30年以上の歴史を持つSQL Serverの最新版が正式リリースされました。「AI時代のデータベース」として、以下の機能が強化されています。主な新機能は以下です。
- ネイティブ JSON / REST API
JSON 操作の強化 & REST API 組み込みで、Web API / マイクロサービス連携が容易に - Change Event Streaming(プレビュー)
DB変更をほぼリアルタイムに Event Hubs / Kafka 等へストリーム配信 - 正規表現(Regex)関数(プレビュー)
T-SQLで直接Regexが使え、アプリ側処理を削減 - ベクター型
RAGに使えるベクター検索をSQL Server内で実行可能 - Fabric へのミラーリング
SQL Server データをMicrosoft FabricのOneLakeに同期し、リアルタイム分析を実現 - 開発者体験の強化
GitHub CopilotがVS Code / SSMS と連携、新Pythonドライバのmssql-python
.NET10リリースの記事でも触れましたが、これにあわせてEF Core 10でもベクター操作に対応し、LINQを使って自然に扱えるようになっていますね。
C#エンジニアとしては以下のメリットがあります。
- 従来C#側で行っていた文字列処理やDTO変換をDB側に寄せるという選択肢も可能に(ただしEF Coreによる抽象化とのトレードオフあり)
- 別途ベクタDBを用意せずとも、.NET + SQL Serverだけでベクタ検索付きアプリを構築できる
以下の講演動画も参考にしてください。
Managed Instance on Azure App Service
Azure App ServiceにManaged Instance機能がパブリックプレビューとして追加されました。レガシーアプリをApp Serviceへ移行可能になります。
以下の特徴があります。
- PaaSのシンプルさとVMレベルの柔軟性を両立
- Windowsレジストリ・COMなど、レガシー依存を許容
- Azure Bastion経由でRDP接続も可能
C#エンジニアとしては以下のメリットがあります。
- レジストリ依存やCOM依存があるためIaaS VMでしか動かせなかった.NET Frameworkアプリを、PaaS環境へ移行可能になる。
- 既存システムを、「まずクラウドへ移行 → 段階的にモダナイズ」という戦略が取りやすくなる。
以下の講演動画も参考にしてください。
講演のデモでは、「.NET Framework上のASP.NET MVCアプリ」を.NET10にしてApp Serviceへ移行するという例がありました。
Microsoft Foundry
基調講演でも登場しましたが、Microsoft Foundryやその周辺フレームワークは、AIエージェント時代のシステム開発において中核となる要素です。
.NET10リリースの記事でMicrosoft Agent Frameworkを紹介しましたが、このようなC#で開発したAIエージェントをMicrosoft Foundryでデプロイすることになるでしょう。
C#エンジニアとしては以下のメリットがあります。
- 慣れ親しんだC#/.NETで、最新のAIエージェントアプリを開発可能
- Microsoft Agent Frameworkで開発したエージェントを、セキュリティの担保された基盤上で運用可能
まとめ
Microsoft Ignite 2025では、「AIがどこにでも存在し、文脈と業務データを理解したうえで人とチームの能力を拡張する」という明確なビジョンが示されました。
Work IQ、Fabric IQ、Foundry IQという3つのインテリジェンスレイヤーにより、AIは仕事の文脈、業務データの意味、複数データソースの統合的な推論を実現します。
Microsoft Foundryを基盤として、AnthropicのClaudeを含む複数のLLMを活用でき、Agent 365によってAIエージェントを安全に管理できる体制が整いました。
C#/.NETエンジニアとしての注目トピックもいくつかありました。
SQL Server 2025、Azure App ServiceのManaged Instance、Microsoft Foundry(及びMicrosoft Agent Framework)などは重要なトピックといえるでしょう。
本記事で紹介した各トピックの詳細は、Book of NewsやIgniteセッション動画で確認できます。まずは興味のある領域から実際に触れてみることをお勧めします。
Microsoftのエコシステム全体がAIを中心に進化していくなかで、M365の一般ユーザ・市民開発者・通常の開発者すべてが、うまくこの基盤を活用していけるとよいですね。
引き続き、AIエージェント時代のMicrosoftエコシステムや、C#/.NETについて一緒に学んでいきましょう!





